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歯周病菌(2000年前後の考え方)

2017年12月29日

歯周病菌に対する考え方はこの20年の間に大きく変化しています。

現在、日本では歯周病菌という用語がさかんに使われていますが、ヒトマイクロバイオーム計画の結果が発表されて以来、専門分野の文献では歯周病菌という用語は徐々に使われなくなっています。

2000年前後に歯周病菌はどのように考えられていたのか、私は歯周病と細菌の関係をどのように考えていたのかを記した2017年当時の記事を以下に転載します。

(2020.10.3)

 


ここからが2017年12月29日に投稿した記事です。

 

歯周病の原因の一つが細菌性プラークであることは間違いありませんが、結核やペストのように、コッホの原則にあてはまるような原因菌がみつかっているわけではありません.

歯周病菌について分かっていることを整理しておきたいと思います。

 

歯周病菌として注目されている菌

歯周病菌として注目をあびている細菌としては以下のものがあります.

Red Complex
・P.g.菌(Porphyromonas gingivalis)・ポルフィロモナス ジンジヴァリス
・T.f.菌
(Tannerella forsythia)・タネレラ フォーシンシア
・Td.菌
(Treponema denticola)・トレポネーマ デンティコラ
その他
・P.i.菌
(Prevotella intermedia)・プレボテラ インターメディア
・A.a.菌
(Actinobacillus actinomycetemcomitans)・アクチノバチラス アクチノミセテムコミタンス

 

歯周炎の原因ははっきりしていなIい

歯周病のはじまりとされる歯肉の炎症は、口のなかにいる細菌によって引き起こされます.

口の中には700種類もの細菌が常在していると言われ、人間と共生しています.

それらの雑多な菌が歯と歯肉の境目に沈着すると、その細菌が体内に侵入するのを防ぐために白血球が局所に送り込まれてきます.

このとき、血管が拡張したり、血管の透過性が増加したりして、歯肉が腫れてきます.これが、歯肉炎です.

しかし、それらの菌がいくら大量についているからといって、組織破壊を伴う歯周病(歯周炎)が発症するわけではありません.

なぜある患者においては病変が歯肉に限局したままなのに、別の患者では歯槽骨(しそうこつ)の喪失を引き起こすところまでその理由は不明である』(*)とリンデ先生の本にも書いてあるように、どのような条件が歯肉炎を歯周炎に進行させるのか、歯周病学者の間では長い間議論が続いており、いまだに結論が出ていないのです。

(*)Lindhe臨床歯周病学とインプラント第4版、基礎編 161

 

コッホの原則にあてはまらない

現在、歯周病は感染症であるという考え方が一般的です.

その疾患が感染症であると判定されるには、コッホの原則を満たす原因菌が存在する必要があります。

コッホの原則

ある細菌がその病気の原因菌であることを特定できる条件として有名なものが、ドイツの細菌学者ロベルト・コッホ(1843~1910)が提唱したとされるコッホの原則です.

コッホの原則は以下の4項目からなります.(1) その微生物が特定の臨床症状を示す患者から常に検出されること.
(2) その微生物が特定の患者から常に純粋培養の状態で分離できること.
(3) この微生物の純粋培養を感受性のある動物に接種すると,特定の症状を示す疾患が起ること.
(4) その動物から再び純粋培養の形でその菌を分離できること.

しかし、歯周病においてはコッホの原則(1)の条件にあてはまる細菌が見つかっていません.

したがって、コッホの原則(2)の条件、歯周病患者から純粋培養の状態で特定の細菌を分離することも当然できません.

(3)の条件、動物実験で歯周炎を発症させることもできないわけです.

 

ソクランスキーの歯周病細菌の条件

コッホの原則に当てはまるような原因菌を見つけるのがなかなか難しいので、ソクランスキーという学者が歯周病細菌の条件としていくつかの項目を提示しました.

 

ソクランスキーによる歯周病細菌と断定するための条件

1.歯周炎の活動部位において、その細菌が非活動部位より多く検出されること
2.その細菌を病巣から排除することにより、歯周炎の進行が停止すること
3.歯周炎の発症と進行を引き起こすに足る病原因子を保有していること
4.その細菌に対する細胞性および体液性免疫応答が患者において誘導されており、疾患の進行に果たすその細菌の役割を示唆しうるものであること
5.動物実験において示される病原性が、ヒト歯周炎の進行に果たす役割を推測しうるものであること

Haffajee AD,Socransky SS : Microbial etiological agents of destructive periodontal diseases. Periodontol 2000 5:78-111,1994

 

1996年に開催されたアメリカ歯周病学会(AAP)のワークショップにおいて、ソクランスキー先生の条件を参考として歯周病細菌に関する討議がおこなわれました.(*)

この中ではやはり、Aa菌、Pg菌、Tf菌などが強いエビデンスを有する歯周病菌としてクローズアップされています.

しかし、ソクランスキー先生の条件に当てはまるような細菌もなかなか見つけることができないのが現状です.

(*)AAP歯周病治療のコンセンサス1996 アメリカ歯周病学会編 クインテッセンス出版

 

レッドコンプレックス

1998年にソクランスキー先生たちは、口腔内の常在細菌のなかで歯周病に関連が深いと考えられる細菌をクラス分けしました.

そして、P.g菌、T.f菌、T.d菌の3菌種が歯周炎に最も関連が深そうだという結論をだしています.

それらの菌は「レッド・コンプレックス」と呼ばれています.

Socransky SS, Haffajee AD, Cugini MA, Smith C, Kent RL Jr. Microbial complexes in subgingival plaque. J Clin Periodontol. 1998 Feb;25(2):134-44.

 


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