こに視点|現代日本の歯科事情

歯周病は原因不明!?

2020年8月1日

「歯周病は原因不明の疾患です」と言ったら、「それは歯槽膿漏の時代の話でしょう」と笑われてしまいそうです。

しかし、こと歯周炎に関しては、歯周病は現在も原因不明の疾患なのです。

 

”プラークがすべて”の時代

重度歯周病が歯槽膿漏と呼ばれていたころ、歯槽膿漏の原因には「全身説」と「局所説」の二つの考え方がありました。
局所説というのは歯に沈着するプラークに原因を求める考え方で、全身説というのは全身の状態、特に栄養失調が歯槽膿漏と関係するのではないかという考え方です。

1950年代から1960年代になると、歯肉炎の原因はプラークであることが明らかになり、歯肉炎に引き続いて発症する歯周炎(歯槽膿漏)の原因もプラークであるに違いないと考えられるようになりました。(非特異的プラーク仮説)

この時代はプラークさえ除去すれば歯周病は治せると考えられていました。(Plaque is every thing.の時代)

 

特定の菌が歯周炎に関与する

しかし、歯肉炎の症状がどんなに激しくても歯周炎に移行しない人がいることや歯肉炎の病変部と歯周炎の病変部に棲息する細菌の種類が違うことなどから、歯周炎の発症には特定の細菌が関与しているのではないかと考えられるようになりました。(特異的プラーク仮説)

そして、歯周病原菌探しが熱心に行われました。中でもレッドコンプレックスという細菌群が歯周病の原因菌としてもっとも怪しいと考えられるようになり、それらに対する研究が熱心に進められてきました。

ところが、レッドコンプレックスの細菌群は歯周炎病変に必ずしも存在しない、動物実験で歯周炎を発症することができないなどの事実から、誰もが歯周病の原因菌と認められる細菌というわけにはいきませんでした。

 

ヒトマイクロオームプロジェクトの研究報告

2007年にヒトマイクロオームプロジェクトの研究成果が発表され、口腔内の常在菌群の様子が分かるにつれ、歯周炎の原因に対する考え方も変わり始めています。

人の口の中には700種類以上の常在細菌群(マイクロバイオータ)がいて、その構成は一人ひとりすべて異なっています。
そして、その細菌群が、代謝や免疫などのヒトの生命活動を担っている(マイクロバイオーム)ことが分かってきたのです。

このことにより、特定の細菌が外から入り込んできて歯周炎を発症するという従来の特異的プラーク仮説は適用しにくくなってしまいました。

といって、歯肉炎から歯周炎への移行が説明できない非特異的プラーク説に戻るわけにもいきません。

 

生態学的プラーク仮説

そこで、リンデ歯周病学では環境が変化すると歯周病菌が活性化する「生態学的プラーク仮説」を提案してその問題を解決しようとしています。
しかし、それだけで歯周炎の原因が説明しきれるものではありません。

歯周炎は現在のところ原因不明な疾患であるということになるわけです。

 

細菌だけに原因を求めない

マイクロバイオータやマイクロバイオームの研究自体が始まったばかりなので、歯周炎の原因をどのように考えれば良いのか歯周病学者も混乱しているというのが現状です。

しかし、歯周炎の原因をマイクロバイオータやディスバイオシス、つまり細菌だけに求めず、宿主因子にもう少し注目をすれば、歯周炎の原因を違った角度から考えることができます。

「特異的プラーク仮説」の全盛時に Hirsch先生とClarke先生は「歯周炎の個人的危険因子」という論文で、特定の細菌が歯周炎を引き起こすのではなく、生体のあり方が歯周炎を引き起こすのではないかという考え方を提案しました。
もう20年以上も前の論文ですが、このような考え方をする歯周病学者もいるのだと嬉しく思ったことを思い出します。

 

片山式と安保免疫論

私が歯周治療を教わった片山恒夫先生は歯周病の原因は細菌だけではなく、その人の生活のあり方にあることを力説していました。

そして、細菌のコントロールとともに生体の抵抗力を高める「自然良能賦活療法」を歯周治療の支柱に据えていたのです。

その生体の抵抗力を高めることは、安保免疫論からすれば交感神経の過緊張の持続を和らげる、簡単に言えばストレスをコントロールすることで、Hirsch先生とClarke先生の個人的な危険因子としてあげられているストレスとぴったりと符合するのです。


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