こに歯学|歯科の記事

抗生物質を歯周治療で使わないで

2020年8月30日

歯周病の治療に抗生物質を使用することが広く行われています。

アジスロマイシン(ジスロマック)などの広域性抗生物質を投与する歯周治療です。

この歯周治療は全身の健康を損なう危険な治療です。

抗生物質の脅威

抗生物質の投与が全身に与える悪影響として二つのことがあげられます。
『マイクロバイオームの攪乱』と『抗生物質耐性細菌』です。

感染に対する感受性の増大

食中毒をおこすことで有名な細菌にサルモネラ菌があります。

このサルモネラ菌と抗生物質の関係を調べた研究があります。

健康なマウスにサルモネラ菌を感染させるためには数十万個の細菌数が必要ですが、一経口用量の抗生物質を投与して、数日後にサルモネラを投与するとたった3個の細菌でマウスは感染してしまったそうです。

この実験が行われたのは1950年代の初頭ですが、その後多くの研究者がこの事実を確認しています。

抗生物質により常在菌のバランスが崩れれば、感染症にかかりやすくなってしまうということに、今から70年前にすでに気がついていたわけです。

ところが、当時は抗生物質が貴重であり、感染症に対する効果も絶大であったために、その問題にはあまり注意が向けられていませんでした。

しかし、現代は事情がまるっきり違ってきています。

度重なる抗生物質投与がマイクロバイオームの攪乱を招き、次の疾患をもたらすことが大きな問題となっているからです。

歯科領域での安易な抗生物質治療が他の疾患を招き寄せていることに注意しなければなりません。

 

抗生物質関連下痢

抗生物質の副作用として下痢が起こすことが知られています。

この下痢の主要な原因の一つにクロストリジウム・ディフィシルがあるということが1970年代後半に判明しました。

クロストリジウム・ディフィシルはペギー・リリスの命を奪った病原菌ですが、欧米ではこの疾患に対する関心は高く、国をあげて調査、感染対策がなされています。

日本ではクロストリジウム・ディフィシルに対する認識度は低く発生率も低いと考えられていましたが、最近の調査で院内感染の発生率は欧米同様高いことが分かってきました。

クロストリジウム・ディフィシルは周囲に競合する細菌がいない状態で短期間に増殖できる病原菌です。

この疾患は抗生物質で治療が行われますが、1/3程度の患者が治療できずに再発を起こします。

抗生物質によってマイクロバイオームが攪乱した状態で発症した病気に、さらに抗生物質を投与してマイクロバイオームを攪乱するわけですから、再発するのは当然なのかもしれません。

抗生物質を使用すればするほど、マイクロバイオームの多様性が失われ、特定の菌があっという間に増殖して悲劇を引き起こしてしまうわけです。

現在、重度のクロストリジウム・ディフィシルは抗生剤の使用ではなく、糞便移植によって完治させることができるようになっているようです。

 

耐性菌の出現

抗生物質の過剰使用で昔から知られている問題として、抗生物質耐性細菌の存在があります。

抗生物質を投与すれば、それは腸で吸収され血液中に入り、そこから口だけではなく胃、肺、皮膚、耳など全身のありとあらゆる場所に運ばれます。

全身に運ばれた抗生物質は、その細菌が病原菌であろうと、健康に寄与する菌であろうと、その抗生物質感受性細菌をすべて根絶してしまいます。

そして、感受性菌が減少した分耐性菌が増加してきます。

そして、耐性菌のなかには病原菌も含まれている可能性があるわけです。

さらに、抗生物質耐性遺伝子を細菌同士でやりとりして、さらなる抗生物質耐性を身に着けていきます。

抗生物質が周りにあるかぎり耐性菌は増え続け、新しい抗生物質の開発が耐性菌の出現に追い付かなくなっているのです。

口腔内に耐性菌がすでに存在している

ある研究(Defining the oral microbiome by whole-genome sequencing and resistome analysis: the complexity of the healthy picture)では、口腔マイクロバイオームには、マクロライド、リンコサミド、ストレプトグラミン、およびテトラサイクリンに対する耐性を与える遺伝子が含まれていることを報告しています。

すなわち現代人の口の中には抗生物質に耐性を持つ細菌がうようよしていて、歯周治療のためにアジスロマイシンなどを簡単に投与することは、耐性を持たない我々にとって有益であるかもしれない菌を駆逐してしまい、マイクロバイオームの多様性をますます低下させることになるわけです。

 

歯周病には効かない

抗生物質の服用によりいろいろ身体に害を与えるわけですが、では抗生物質は歯周治療に必要なのでしょうか?

全身に与える害を補って余りあるほどの効果が期待できるのでしょうか?

実は歯周病治療にはまったく効果が無いのです。

 

歯周病の病因論から考える

リンデ臨床歯周病学の第6版では「歯周病原菌」という表現がなくなって、歯周病はディスバイオシス(常在菌群の乱れ)によるものではないかという仮説を提出しています。

つまり、今までのレッドコンプレックスに代表される歯周病菌を取り除くという治療法から、常在細菌群の乱れを是正するという方向に転換しているわけです。

この常在菌群の乱れは抗生物質で取り戻すわけにはいきません。

抗生物質の使用はかえってディスバイオシスを引き起こすので、治療というより悪化させる行為ということになります。

 

症状の消退が意味するもの

抗生物質が歯周治療に効果がある根拠として、服用によって出血や排膿などの症状が軽減するというものがあります。

しかし、このことが歯周病が改善していることになるのかというと、そのようなことはありません。

広域性の抗生物質を投与すれば、その効果で細菌の絶対数が減少します。

特にアジスロマイシンはファゴサイトデリバリーの効果で口の細菌数を大幅に減らすことができるかもしれません。

一時的に細菌数が減少すれば、細菌の侵入を防ぐ役割の白血球(好中球)は局所に集まる必要が無くなるので、血管の拡張や液状成分の滲出は治まります。

したがって、出血も少なくなりますし、白血球の残骸である膿の排出も少なくなります。

しかし、これは歯周病が改善したわけではなく、細菌の絶対数が減ったために起こった現象で、生体にとっては好ましい状態ではありません。

 

ファンキゾン歯磨きはカンジダ対策

抗生物質によって局所に存在する常在菌が減少するとカンジダアルビカンスという真菌が口腔内にはびこる、菌交代現象が起こることがあります。

口腔カンジダ症の治療薬としては抗真菌剤のファンキゾンが有名です。

アジスロマイシン(ジスロマック)とファンキゾン入りの歯磨き剤を推奨している歯科医がいますが、彼らは抗生物質を投与した後、菌交代現象を起こす予防としてそのようなことしているのでしょう。

しかし、このようなやり方は、私たちの口の中を守っているマイクロバイオームを攪乱するだけの、ハカイシャの仕業にしか私にはみえません。

歯周治療と称して抗生物質を使うのは止めてください。

 

歯周組織破壊は免疫細胞が引き起こす

抗生物質がスケーリングやルートプレーニングをしっかりやった後、補助的に使うのは意味があるのではないかという意見も確かにあります。

しかし、そのような論文はマイクロバイオーム計画の研究成果がでる10年以上前に書かれたものが多く、抗生物質は効果が認められることもあるが、全身への影響も考えて慎重に使用するべきだという論調になっています。

私たちは、歯周組織破壊性の歯周病(歯周炎)の組織破壊は生体の免疫細胞によって引き起こされるので、歯周炎の発症進行には細菌の存在はそれほど重要とは考えていません。

したがって、歯周病の治療では抗生物質は一切使うべきではないと考えています。

 

歯科治療に抗生物質を使用しないで

私たち歯科医は、米国感染症学会元会長、マーティン・J・ブレイザー教授の次の言葉を真摯に受け止めるべきだと思います。

歯科医には、利益が潜在的なリスクを上回ると思われるときだけ、抗生物質を処方して欲しい。

よい歯科医療とは第一に「害をなさない」ことである。

多くの歯科的疾患は、外科的介入や口腔衛生を守ることで対処ができる。

(失われてゆく我々のうちなる細菌、マーティン・J・ブレイザー・)

「抗生物質治療は歯周治療と称して”毒”を飲まていることに他ならない」と言ったら言い過ぎでしょうか。

しかし、マイクロバイオームのことを知れば知るほど、抗生物質は安易に扱ってはいけない薬剤であるという思いを深くしています。


歯周病の新常識
小西昭彦
阿部出版
歯科治療の新常識
小西昭彦
阿部出版

小西歯科医院のホームページ

-こに歯学|歯科の記事
-, , ,

© 2020 小日誌《こにっし》 Powered by AFFINGER5