こに歯学|歯科の記事

歯周病と全身疾患の関係を心配しすぎない

2017年11月19日


歯周病と全身状態の関連を研究するペリオドンタルメディスンの発展によって、歯周病が心臓病や糖尿病などの全身疾患と関連していることが分かってきました.

それを理由に「歯周病を放置しておくと大変なことになる」とおどかす歯科医もいるようです.

しかし、歯周病と全身疾患はほとんどの人が心配する必要はありません.

私が心配ないとする根拠は以下の3つです

① 歯周病と全身疾患の関係にはっきりした因果関係がみとめられたわけではない

② 全身疾患と関連する歯周病は歯周病の中のごく一部

③ 歯周病という病名が混乱に輪をかけている

 

歯周病と全身疾患の因果関係ははっきりしていない

歯周病と全身の関係を研究するペリオドンタルメディスンの分野が発展したお陰で、歯周病と全身状態が関連していることがはっきりしてきました.

しかし、その関連が分かってきただけで歯周病と心筋梗塞や脳梗塞に強い因果関係が認められたというわけではありません.

たとえば、歯周病と心臓病の関係です.

歯周病ではない人に比べ、心筋梗塞や狭心症をおこしやすいという報告はありますが、その発病率は注目に値するほど高い数値ではないと考えられています.

歯周病と全身状態との関連で理解しておかなくてはいけないことは、歯周病と全身状態に相関関係があることが分かっているだけで、その因果関係が認められているわけではないことです.

 

歯石沈着、歯肉炎と歯周炎は別の病気と考えた方がよい

歯周病菌やその炎症因子が全身に運ばれて悪影響を与える、というのがペリオドンタルメディスンの考え方です.

全身に影響を与える歯周病菌として考えられているものには Pg菌、Tf菌、Td菌, Pi菌、Aa菌などがあります.

これらの歯周病菌は歯周炎の深い歯周ポケットに存在する細菌なので、歯肉炎や軽度歯周炎の方はほとんど心配する必要はありません.

歯肉から出血する程度の歯肉炎や歯石が付いている程度の状態と全身疾患と関連する重度の歯周炎とは違うもので、重度歯周炎の罹患率は非常に少ないものです.

 

歯周病という用語の使い方が問題を大きくしている

なぜ歯石がついているだけの状態や歯肉炎までも“恐ろしい歯周病”というような間違いが起こってしまったのかというと、一つには用語の問題があったのではないかと考えています.

アメリカ歯周病学会などが全身状態との関連で問題としている病気は"periodonntitis(歯周炎)"です.

ペリオドンタルメディスンをはじめとして、再生療法や外科手術の対象となる病気はすべて"periodonntitis(歯周炎)"という用語が使われており、"periodontal disease(歯周病)"という表現はあまりみかけません.

"periodontal disease(歯周病)"には"gingivitis(歯肉炎)"と"periodontitis(歯周炎)"があるのですが、欧米の論文で"periodontitis"とされているものを本邦では“歯周炎”ではなく“歯周病”と訳してしまっています.

歯がぬけおちてしまったり、全身疾患と関連したりする歯周病というのは、深い歯周ポケットのある重度歯周炎(periodontitis)で、歯肉から出血する程度の歯肉炎(gingivitis)は含まれません.

歯周炎(periodontitis)と歯肉炎(gingivitis)とは英語の論文ではしっかり区別されていますが、わが国の論文では歯周病としてひとくくりにしてしまっていることが多いようです.

このことが、歯石沈着や歯肉炎だけの人にも、全身状態の心配を強いるような混乱を起こしてしているのではないかと思います.

 

 

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