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「歯周病はうつる」という誤解・歯周病原菌からディスバイオシスへ

2020年8月1日

「歯周病は感染症で歯周病菌はうつる」と2008年に発行された『臨床歯周病学とインプラント』の第5版には書かれています。

しかし、2015年に発刊された第6版ではその考え方がガラリと変わっています。

歯周病原菌という用語自体が教科書から消えて、ディスバイオシスという用語がたくさん使われるようになっているのです。

ディスバイオシスというのは口腔内微生物群、マイクロバイオータの乱れということで、2015年のリンデ歯周病学では、歯周病の原因は歯周病菌というよりディスバイオシスに重きが置かれています。

ディスバイオシスというのはその人固有の常在微生物群が問題を起こすということですから、「歯周病菌がうつる」という表現は適当ではないわけです。

 

病原菌が見つからない

その細菌がその疾患の病原菌であることを証明するためにはコッホの原則を満たさなくてはなりません。

コッホの原則というのは、病気を病んでいる身体からその病気以外には発見できない特定の菌が発見でき、その菌で動物にその病気を発症させられるというのが、その大要です。

しかし、歯周病ではコッホの原則を満たすような病原菌は発見できませんでした。

つまり、歯周病では結核菌のようにこれといった原因菌が見つかっているわけではないのです。

歯周病に関連する細菌は多数存在し、レッドコンプレックス( * )と呼ばれている菌群がその代表的なものです。一般的にはこの菌群を歯周病菌と言っているようですが、その意味合いは結核の結核菌とは全く違います。

(*)A.actinomycetemcomitans, P.gingivalis,and T.forsythia

 

歯周病原菌がいなくなってしまった

上に書いたことは少し前の歯周病菌に対する考え方なのですが、歯周病菌に関してこの10年で意外なことが分かってきました。
”歯周病原菌”というものがいるのかどうかがあやしくなっているのです。

リンデ先生の本を例にとると、2008年に発行された第5版では歯周病原菌(periodontal pathogens)という単語がさかんに使われていますが、2015年の第6版では使われなくなっています。

 

リンデ臨床歯周病学第5版

Periodontal pathogens
The World Workshop(1996) in Periodontology designated A.actinomycetemcomitans, P.gingivalis,and T.forsythia as periodontal pathogens.

歯周病原菌
歯周病学の世界ワークショップ(1996年)では、歯周病原菌としてA.actinomycetemcomitans、P.gingivalis、およびT.forsythiaが指定されました。

Jan Lindhe : Clinical Periodontology and Implant Dentistry 5th Edition p213 (2008)

上に引用した部分を見ても分かるように、第5版の「歯周感染症」の章ではPeriodontal pathogens(歯周病原菌)という単語がたくさん登場し、213ページには『Periodontal pathogens(歯周病原菌)』という項目が存在し、レッドコンプレックスを歯周病原菌として指定しています。

一方、2015年に発行された第6版では『Periodontal pathogens(歯周病原菌)』という用語は「歯周感染症」の章ではまったく使われていません。

 

リンデ臨床歯周病学第6版

conclusion
In this chapter, the central role of a dysbiotic microbiota has been highlighted, similar to our understanding of the etiology of disease with a complex microbial etiology at other sites of the human body.

結論
この章では、人体の他の部位における複雑な微生物学的な病因を伴う疾患についての理解と同様に、歯周病の微生物学的病因としては、ディスバイオティックマイクロバイオータが中心的な役割を果たしていることが強調されています。

Jan Lindhe : Clinical Periodontology and Implant Dentistry 6th Edition p216 (2015)

第6版では、歯周病原菌(periodontal pathogens)という単語の代わりにマイクロバイオータ(periodontal microbiota)ディスバイオシス(disbiosis)という用語が盛んに使われるようになっています。

歯周病は一般的な感染症と違ってマイクロバイオータ(健康な常在細菌叢)が攪乱された状態(ディスバイオシス)になることによって引き起こされるという考え方になっているのです。

メモ

Clinical Periodontology and Implant Dentistry 6th Edition
第10章Periodontal infection(歯周感染症)の抜粋と訳
Introduction(序文)
歯周病におけるディスバイオシス
歯周細菌と毒性
歯周病の細菌学的病因論
conclusion(結論)

2015年のリンデ先生の教科書を見る限り、歯周病は結核などの感染症と同じ意味合いでの病原菌は存在しないということになります。

かつての伝染病の原因菌と同じような病原菌はいないわけですから、「歯周病がうつる(感染する)」という表現自体が適切でないということになります。

 

ディスバイオティックなマイクロバイオータ

歯周病菌に対する考え方が第5版と第6版ではすっかり変わってしまったわけですが、第5版が出版された2008年から第6版の出版された2015年の間に何が起こったのでしょうか?

それは、2007年の「ヒトマイクロオームプロジェクト」の報告です。

ディスバイオティック、マイクロバイオータなどの用語が頻出するのは「ヒトマイクロオームプロジェクト」の結果を受けているからです。


歯周病の新常識
小西昭彦
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