こに視点|現代日本の歯科事情

歯周病と認知症

2020年10月10日

 

ポイント

私は、「歯周病が認知症の発症、進行に関係する、と簡単にいうことはできない」と考えています。

なぜなら、ポルフィロモナス・ジンジバリスの存在と量が歯周病と関係あるかどうか、明確になっていないからです。

認知症の原因物質 歯周病によって蓄積する

認知症の原因物質が脳に蓄積して記憶障害が起きる仕組みを九州大学などの研究チームが解明したというニュースが伝えられました。

この報告をもとに歯周病と認知症の関係を大げさに宣伝する歯科関係者が出てくると思うので、分かっていることを確認しておきたいと思います。

 

ジンジバリス菌がアミロイドベータを蓄積する

認知症の7割を占めるアルツハイマー病は『アミロイドベータ(Aβ)』などの異常なたんぱく質が長年、少しずつ脳に蓄積することで発症、進行すると考えられています。

今回伝えられたニュースは、歯周病菌と考えられているポルフィロモナス・ジンジバリス菌をマウスの腹腔内に直接投与して感染させたところ、マウスの脳血管の表面では、アミロイドベータを脳内に運ぶ受容体が2倍に増え、アミロイドベータの蓄積量も10倍に増え、マウスの記憶力低下も裏付けられたという報告です。

チームの武州准教授は「歯周病の治療や予防で、認知症の発症や進行を遅らせることができる可能性がある」と話しているそうです。

 

歯周病とジンジバリス菌の関係はそれほどはっきりしていない

マウスの腹腔内にジンジバリス菌を注入すると、脳細胞のアミロイドベータが増え、記憶力が落ちるということがこの研究の骨子です。

そのことが「認知症の原因物質が歯周病によって蓄積する」と言えるのかどうかについて私の考えを記します。

ポイントは「ジンジバリス菌=歯周病」と言えるのかどうかということです。

少し前なら「ジンジバリス菌=歯周病」という考え方を多くの人たちがしていました。

しかし、近年、歯周病原菌に対する考え方がガラリと変わってきているので、「ジンジバリス菌=歯周病」と直結させるのは無理があるのではないか、というのが私の見解です。

 

ジンジバリス菌は歯周病菌と呼ばれていますが、結核やコレラのような意味での原因菌ではありません(*1)。

ジンジバリス菌の存在しない重度歯周病も存在しますし、ジンジバリス菌がいても歯周炎が必ずしも発症するわけではありません。

ジンジバリス菌は少数でも環境に影響を与えるキーストーン種であるという仮説(*2)が発表されていますが、ジンジバリス菌と歯周病の関係は、はっきりしたことは何も分かっていないというのが現状です。

ジンジバリス菌キーストーン種の仮説に則れば、ジンジバリス菌は少数でも歯周病を発症させるということになります。

ごく少数のジンジバリス菌でもアミロイドベータが増加するのであれば別ですが、アミロイドベータの増加が一定量のジンジバリス菌を必要とするのであれば、歯周病が認知症の発症、進行に関与すると言うことは難しくなります。

したがって、ジンジバリス菌とアミロイドベータの関係が明らかになったにしても、歯周病とアミロイドベータつまり認知症との関係を結びつけるのは難しくなるわけです。

つまり「歯周病は認知症の発症、進行に関係する」と簡単には言えないということになります。

 

(*1)歯周病菌に対する考え方の変遷:歯周病の細菌学的病因論【リンデ歯周病学】

(*2)ジンジバリス菌と歯周病に関する仮説:P.ジンジバリスはキーストーン種

 

関連図書

歯周病の新常識

根本から見直される歯周病と原因菌 P81

 


小西歯科医院のホームページ

 

-こに視点|現代日本の歯科事情
-,

© 2021 小日誌《こにっし》 Powered by AFFINGER5