こに歯学|歯科の記事

歯周病はキスでうつらない

2020年8月1日

「歯周病はキスで感染する」と多くの歯科医が言っています。

本当にキスで歯周病がうつるのでしょうか?

「キスで歯周病がうつる」というのはまったくの都市伝説です。

現代の細菌学や歯周病学の観点から考えれば、キスで歯周病がうつるということは考えられません。

歯周病菌は侵入しても定着できない

キスで外来の細菌がうつるのかどうか、米国感染症学会の会長を務めていたニューヨーク大学微生物学教授のマーティン・J・ブレイザーは次のように言っています。

失われてゆく、我々の内なる細菌

侵入してきた細菌が数日間、なんとかそこに居続けることはあるかもしれない。
しかし、いずれ排除される。常在細菌は状況を一定に保ち続ける働きをする。
キスをすると、多くの細菌が両者の間で受け渡しされる。しかし、数分か数時間、長くても数日するとキスをする前の細菌状態に戻る。
正常細菌叢のよそ者に対する抵抗は根本的なものである。

(マーティン・J・ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』みすず書房、p37)

口の中には多種多様な微生物群が常在していて、そこに独自の生態系を作っています。

その生態系によそからやってきた外来微生物が入り込もうとしても排除されてしまいます。

歯周病菌でも同じことです。いくらキスで歯周病菌がパートナーの口に移動できてもそれほど簡単に定着することはできないわけです。


進化生物学者のアランナ・コリンの本にも同様なことが書かれています。

あなたの体は9割が細菌

悪い細菌が外からやってきても常駐している微生物が障壁となる。いかにも外敵の侵入に弱そうな口内の軟組織でさえ、侵入者をきちんと食い止める。

(アランナ・コリン『あなたの体は9割が細菌』河出書房新社)

口の中の微生物群は独自の生態系を形成しているので、よそ者の微生物はおいそれと口の中に入り込むことはできません。

この口の中に生態系を作っている微生物群をマイクロバイオータ、その微生物群がおりなす代謝や遺伝などの生命活動をマイクロバイオームといいます。

このマイクロバイオームが安定した状態であると、外来の微生物が口腔内に侵入して定着することは難しくなります。

歯周病菌も例外ではなく、簡単には他人の口の中に入り込めません。

したがってキスで歯周病がうつるということはあり得ないわけです。

 

キスによる細菌の移動を調べた研究

口の中にいる細菌がキスでどの程度相手の口に移動するのかを調べた研究があります。

この研究によると、キスをすると口の中の細菌は一時的に相手の口に移動しますが、定着することはほとんどなかったと言っています。

私たちの調査結果は、パートナー間の集団細菌の一部が一時的にしか存在しないことを示しましたが、舌の表面に真のニッチを見つけ、長期的なコロニー形成を可能にしている場合もあると考えられます。

Remco Kort et al. : Shaping the oral microbiota through intimate kissing

この論文では主に舌の表面(舌背)の細菌の移動について調べています。
舌の表面にいる細菌でさえ他人の口に入り込んで定着することは難しいわけですから、歯周ポケットの深部に生息する歯周病菌がおいそれと他の人の口に侵入して定着することはあり得ないということになります。

 

キスで歯周病がうつるという都市伝説が生まれたわけ

それではなぜ「キスで歯周病がうつる」というような誤った情報が大手を振ってまかり通ってしまったのでしょうか?

それは、「歯周病は感染症であり、歯周病原因菌は他の人の口からうつされる」と考えた日本の歯科医がいたからだろうと思います。

Lindhe臨床歯周病学とインプラント第4版(2005年)の『第4章:歯周疾患の微生物学』の最初に「歯周疾患は歯肉縁下の歯面に生息する微生物による感染症である」と書かれています。

その感染症を起こす病原菌は他の人の口から獲得され、その方法には親から子に伝わる垂直伝播と親以外からもらう水平伝播があるとあります。

つまり、歯周病原菌が他の人から伝播するとしたら、口から口へ直接伝わるしか考えられないので、夫婦間のキスや親子の口移しで歯周病菌が受け渡されるのではないかと想像したのでしょう。


歯周病の新常識
小西昭彦
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