こに視点|現代日本の歯科事情

歯科の自費治療とその害

2018年1月6日

歯科医の過剰が無謀な自費診療の増加を招いている

歯科医師過剰問題

最近、歯科医療のトピックスとしてよく取り上げられるのが「歯科医師過剰」の問題です.

厚労省によると、1982年に58362人だった歯科医師数が2014年には103972人とほぼ倍近い数に増加しているということです.

歯科医師が巷にあふれかえっている一方で、むし歯や歯周病の患者さんは少なくなっています.

歯科医院の経営は圧迫され、それぞれ生き残りのために必死になっています.

無謀な自費診療が横行し始めた

歯科医師の数が増えれば、歯科医院のサービスが向上してよいことのように思えますが、話はそう簡単ではありません.

なぜなら多くの歯科医院は過当競争にまきこまれ、患者さんの口の健康より医院の経営を優先した診療を強いられるようになるからです.

抜かなくてもよい歯を抜歯して埋入するインプラント、白い歯といって健康歯質を大幅に削り取ってしまうセラミック、歯並びを治すと言いながらかえって口の中を壊してしまう歯列矯正、例をあげればきりがないほど無謀な自費診療が横行し、それが甚大なトラブルを引き起こしています.

これらの治療はその分野の専門的な知識や技術とともに、歯科医療全般に関する深い見識が必要なのですが、それらが欠落した歯科医の未熟な治療がまかり通り大きなトラブルを引き起こしているのが現状です.

 

かつてはいい加減な保険診療が幅をきかせていた

日本の歯科医療は公的医療保険制度の元に組み立てられていますが、この健康保険制度の診療報酬は出来高払いが基本です.

出来高払い制度というのは治療の質に関わらず、根管充填をすれば何点、クラウンを入れれば何点とその行為に対する報酬が支払われる仕組みです.

つまり健康保険制度のもとでおこなう歯科治療では、丁寧に時間をかけて作った具合のよいクラウンも、適合の悪い噛み合わせもいいい加減なクラウンンもまったく同じ報酬になってしまいます.

したがって保険診療で歯科医院の経営を安定させるには、時間をかけて丁寧にクラウンを作るのではなく、たくさんの患者さんをみることが必要になり、クラウンの粗製乱造がおこなわれるようになってしまうわけです.

現在でも保険診療中心にたくさんの患者さんをみている歯科医院もありますが、多くの歯科医院では十分な患者数を確保できていない状態なので、ひところほどひどい保険治療の心配は少なくなっています.

それに代わって問題となってきたのが自費診療なのです.

 

経営のための自費診療にシフトしている

患者さんの数が少なくなってしまった歯科医院では保険診療をあきらめ、一人ひとりの患者さんに時間をかけて単価の高い自費診療を行う方向にシフトしています.

その代表がインプラントであり、矯正であり、大がかりな補綴治療や審美歯科なのです.

科学的根拠の希薄な薬剤やレーザーを使用した歯周病治療、ドックベストセメントや3mix法などを用いたむし歯治療、1根管5万円、10万円といったマイクロスコープの根管治療などの保険外の診療がさかんに宣伝されているのも、自費診療志向の表れです.

インプラントも矯正も専門的な勉強をきちんとした経験ある歯科医のものであればまだ問題は少ないのですが、経験年数が10年にも満たないような、勉強の足りない歯科医の実験台にされてしまうと、とんでもない被害を被ってしまいます.

保険診療の害はまだ軽微ですが、インプラントや矯正治療の失敗症例は目を覆うばかりの悲惨なことが多く、私は心から憂慮しています.

自費診療の害

自費治療は保険診療に比べると何倍もの報酬が得られるので、経験も技術もないままにその治療に着手する歯科医が非常に多くなっています.

自費治療の代表的なものとして、インプラント、セラミックの白い歯、歯科矯正があります.それらについて簡単に触れてみたいと思います.

インプラント

インプラントというのは、歯を失った部分のあごの骨に穴をあけて、チタンなどでできた人工歯根を埋め込むものです.

あごの骨に穴をあければ歯科医であれば誰でもインプラントを埋め込むことはできます.

しかし、それが大きなトラブルを引き起こしたり、望んでいたような効果が得られない例が続出しています.

一見うまくいったように見えるインプラントでも、時間経過とともにトラブルを引き起こすこともありますし、インプラントを植立した周りの天然歯に被害を与えることもあります.

インプラント周囲炎や咬合、力の因子などのことを考えると、長い人生の中でインプラントが突然悪化して口腔崩壊の要素になりうる可能性を秘めていることは否定できません.

しかし、欠損部にインプラントを埋め込むことしか考えていない歯科医たちはインプラントが持てば、他の歯にトラブルがおこることは意に介していません.

他の歯がだめになれば、またそこにインプラントを入れるチャンスが増えるくらいに考えている歯科医師が少なくありません.

セラミックの白い歯

誰だって金属の歯より歯冠色の歯がよいに決まっています.

しかし、セラミックなどの白い歯には、削りすぎる、硬いので歯に負担をかける、歯根破折の危険性が高まるなどたくさんのデメリットがあります.

ましてや未熟な歯科医の手によって削りすぎの不適合な補綴物を入れられては、あっと言う間に歯を失いかねません.

白い歯は高額なので歯科医の経営は潤いますが、欠点も非常に多いということを知っておいて損はないと思います.

 

矯正治療
矯正治療の二次被害

あまり知られていませんが、歯科矯正には後戻りがつきものです.きちんと保定装置をしていても戻ってしまうことがたくさんあります.

また、矯正中のむし歯や歯周病の発症も多々報告されています.

歯間乳頭部の歯肉が退縮してしまうこともよく起こりますし、矯正力によって歯根が吸収してしまうこともあります.

患者さんが想像していたとのかなり違ったかみ合わせや歯並びになってしまうことも稀ではありません.

矯正の手法によって得手不得手がある

歯科矯正には驚くほどたくさんの手法がありますが、それぞれのやり方によって得手不得手があります.

その患者さんにとってどの矯正手法が自分にあっているのかを探すのは至難のわざです.

また、同じようにみえる受け口の治療でも簡単になおってしまうものとそうでないものがあります.

矯正をするのであれば、それらを判断できる経験のある専門医を探すことをお勧めします.

歯科矯正の体系をきちんとマスターしないで治療に着手する”矯正医もどき”や”にわか矯正医”がたくさんいることを忘れないでください.

自費治療から身を守る

 

インプラントや矯正治療はそれらの専門部門に習熟するとともに、咬合や習癖をはじめとした口腔全般に対する総合的な知識が必要不可欠です.

そのような知識も技術もない歯科医が大手をふって高額な自費治療に患者さんを誘導し、次々とトラブルを引き起こしているのが日本の歯科医療の現実です.

この状況下でご自分の口の健康を守るのは自分自身しかいません.

その自費診療がご自分にとって必要なのかそうでないのか、十分考えて施術を受けるようにお願いします.

メモ

歯科治療の新常識 p60 社会的歯科医原病

-こに視点|現代日本の歯科事情

© 2024 小日誌《こにっし》 Powered by AFFINGER5