こに歯学|歯科の記事

ドックベストセメントの問題

2017年4月26日


ドックベストセメントが“削らない”治療、”痛くない”治療法ということでマスコミで取り上げられることがあります.

ドックベストセメントは”OK牧場の決闘”で有名なドク・ホリデーにちなんで命名された歯科用セメントです.

 

金属イオンの作用で殺菌する

ドックベストセメントは軟化ゾウゲ質とよばれるむし歯の部分を手用の器具で除去して、痛みを感じるであろう深部の軟化ゾウゲ質の細菌は金属イオンの作用で殺菌することで、削る量を少なくしようという試みです.

近年の多くの歯科医はむし歯を高回転のタービンやエンジンで削り取ることが当たりまえになっているので、器械でガリガリ削るのに比べれば痛くないのは当たり前です.

しかし、小児の治療や麻酔が苦手の方の治療では、手用の器具でそっと除去することは少し丁寧に治療をする歯科医院では、普通に行われていることで、その手技に関しては特別なことは何もありません.

 

確実に殺菌できているかどうか分からない

問題は手用器具でそっとやっても、痛みを感じてしまう部分の治療です.

軟化ゾウゲ質を徹底的に除去するのが歯科治療の原則なので、麻酔をしてでもむし歯の部分をきちんと取り去るのが正しい歯科治療です.

ドックベストセメントは、痛い部分のむし歯はさわらずに、薬の作用で殺菌してしまおうというという考え方です.

しかし、金属イオンで軟化ゾウゲ質の細菌が完全に殺菌できるのかどうか検証されていませんし、きちんとした臨床データが提示されているわけでもありません.

実際に、細菌を除去しきれず、歯髄壊死を起こしてしまったケースを日常臨床でたくさん経験します.

 

臨床研究や経年報告は皆無

私はドックベストセメントの有効性を納得させてくれる臨床研究や経年報告をあまり見たことがありません.

たとえきちんとしたデータがなくとも、その薬剤の効果が臨床的に認められるものがあるなら、多くの歯科医がその治療法に飛びき、勉強会や歯科雑誌で発表するはずです.

しかし、私の所属するいくつかの勉強会でドックベストセメントの報告を見聞きしたことはありませんし、歯科雑誌でもその記事を見かけたことはありません.

 

自費治療なので推奨している?

この治療法で使われる薬剤は日本で認可されていないものなので、保険診療の適用を受けていません.

したがって、自費治療ということになるので、一部の歯科医が声高に推奨しているのではないかと私は勘繰っています.

 

削らないと言いながら削る歯科医

ドックベストセメントのセールスポイントは”削らない”ということなのですが、“削らない”ということで注意して欲しいのは、むし歯の治療、軟化ゾウゲ質の除去ではなく、補綴処置での削りすぎです.

特に“白い歯、セラミック”などの高額な補綴物は健康なエナメル質を大量に削ってしまうので注意が必要です.

多くの歯科医が白い歯にしましょうとさかんに誘導していますが、これらの治療は“削らない治療”の対極に位置する“削りすぎ治療”の最たるものです.

皮肉なことにドックベストセメントで削らないことを吹聴しているホームページで、削りすぎる白い歯を勧めているのが現実です.

”削らない”むし歯治療と”削りすぎる”白い歯の共通点は自費治療です.

削らないドックベストセメントと削りすぎのセラミックの共存、歯科医の下心が見えてくるのではないでしょうか.

世の中にうまい話がそんなにたくさんころがっているわけではありません.

 

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