こに歯学|歯科の記事

歯周外科手術は必要ですか?

2016年12月22日


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現在アメリカ在住の60代の女性です。
私はこちらで一番奥の歯が片方が8mm、もう一方が6mmのポケットがあり、歯茎を切る手術をするように勧められています。
本当に手術をしなければならなければいけないのであれば、するつもりにはしております。
しかし切らなくて済むのであればと、その可能性を伺いたく、思い切って質問します。

 

長期的な目で見ると歯周外科手術は意味がない

歯周外科の必要性に関してですが、8mm程度の歯周ポケットがあるからといって、慌てて手術する必要はありません.

ポケットの深さは歯周病がどの程度進んでいるかの目安で、測定者によっても数値が変わってきますし、歯周組織の状態によっても体調によっても変わってきます.深い歯周ポケットがあっても、ブラッシングなどの基本的な処置をきちんとして、様子をみていくのが歯周病治療の王道です.

ましてや一番奥の歯の奥側は歯周ポケットが深くなりがちなので、ポケットの数値だけであわてる必要はありません.

スェーデンのリンデ先生やアメリカのランフォード先生をはじめとして、歯周病学者は外科処置をしてもしなくても5年以上の時間が経ってしまえば、その結果はあまり変わらないという研究結果を発表しています.

歯周炎の治癒に関して、長期的な目で見ると、手術をしてもしなくてもその結果に差はないので、手術の必要はないという結論です.

日本では最近、歯周病の手術はひところに比べて慎重になってきているようですが、これは手術の有無が長期的な歯周炎の治癒に影響を与えないこと(文献4-7)が分かってきたことと、片山式歯周病治療の影響が少なからずあるのではないかと思っています.

 

片山恒夫先生の考え方

片山先生はそのような研究発表の前から、フラップ手術は意味がない、かえって弊害があると考えていました.

理由は以下の通りです

①歯周病の原因は細菌なので、歯茎を切開して根元をそうじするだけのフラップ手術をしてもそれで原因が除去できるわけではない

②手術をしてもしなくても、治療のブラッシング(片山式ブラッシング)だけで十分回復できる

③手術をしたからといってブラッシングをしなくてよいわけではない

④手術でも救えないような重度の歯周病でも片山式歯周治療で治すことができる

⑤手術はたとえ軽いものでも、歯周支持組織(歯肉や結合組織線維や歯槽骨など)の減少を招いてしまう.

⑥歯周病治療で一番重要なのは患者さんのブラッシングなのに、手術をすると、これだけ大変な思いをしたのだから、と患者さん自身が行うブラッシングがおろそかになってしまう傾向がある.

⑦手術しないで「自分で治した」という意識が後々のメインテナンスに大きな影響を与える.

 

歯周外科手術のメリットはほとんどない

フラップ手術をすれば、それだけで歯周病が治るというわけではありません.

歯周ポケットが一時的に浅くなるだけです.

ブラッシングなどの適切なケアを続けなければ、ポケットはすぐに再発してしまいます.

あまり上手でない歯科医が、ただ闇雲にフラップを開けて根面を掃除するだけでは、ポケットの改善もままならないことも多いようです.

そのような手術はただただ痛い思いをするだけで何の益もありません.

歯周病になってしまった原因、細菌因子と宿主因子(疲れ、寝不足、ストレス、頑張りすぎなど)をきちんとコントロールしないと歯周病はいつまでたっても治りません.

逆にそれらのことがきちんとできれば、外科手術などしなくてもポケットはなくなり、歯周病は治ります.

つまり、外科処置は歯周病の治療にはあまり意味のない処置だということになります.

 

歯周外科に関する論文


1) 片山恒夫、歯槽膿漏-抜かずに治す、P446~459

2)小西昭彦他、オーラルフィジオセラピー、P60~69

3)Ramfjord.S.P,"4 modalities of periodontal treatment compared over 5 years",Journal of Clinical Periodontology(1987),
「4つの異なった術式の5年間をフォローアップした結果、術式による効果の相違は認められなかった」

4) Kaldahl WB et al,"Long-term evaluation of periodontal therapy:1.Response to 4 therapeutic modalities",Journal of Periodontology(1996)
「3種類の術式の7年間の経過を比較したが、術式による予後の相違は認めなかった」

5) Kaldahl WB et al,"Long-term evaluation of periodontal therapy:2.Incidence of sites breaking down"Journal of Periodontology(1996),
「長期に経過を観察すると術式による際だった相違は認められず、それぞれ治療の効果はあがっている」

6) Renvert S et al,"5-year follow up of periodontal intraosseous defects treated by root planing orflap surgery",Journal of Clinical Periodontology(1990),
「ルートプレーニングとフラップオペの5年後のアタッチメントレベル、骨レベルに差はなかった」

7) Kaldahl WB ei al,"A review of longitudinal studies that compared periodontal therapies"Journal of Periodontology(1993),
「経時的に観察すると外科と非外科の予後に相違は認められない」

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