こに歯学|歯科の記事

フェルールのない残根の歯も抜かない

2019年2月6日

 

フェルール(Ferrule)とは

フェルールというのは、 パイプや棒などをつなぎ合わせる部品のことです。

配管の継ぎ手や、消しゴムつき鉛筆の消しゴムを固定する金輪などがフェルールです。

 

 

歯科では歯にクラウンをかぶせる際にクラウンが抱え込むことのできる歯質をフェルールといいます。

この部分で歯を把持してクラウンが脱離しにくくするのと同時に歯の破折を防ぐ効果があるとされています。

もちろんフェルールはあるに越したことはないのですが、それが確保できないからといってクラウンが入れられないというわけではありません。

フェルールを確保するためにクラウンレングスニングといわれる観血処置もありますが、歯槽骨をはじめとした健康な歯周組織を除去してしまう手術でその長所と欠点を考えるとあまりお勧めではありません。

 

 

 

フェルールが確保できないとクラウンがとれやすい

​「残根で抜かなければいけないといわれたが、抜かなくてはいけないのでしょうか?」

不安げな面持ちの男性が来院しました.

当該の歯には脱落したクラウンが仮りのセメントでつけてあります.

今のところ痛みもなく、とれてしまうこともなく、仮りのセメントで十分機能しているようです.

あわてて抜く必要はないのに、セカンドオピニオンで訪れた7,8軒の歯科医院ほとんどで「抜歯した方がよい」と言われたそうです.

歯科医が抜歯という理由は、しっかりしたクラウンをかぶせるには、残存歯質が足りなくてフェルールが確保できないからというものです.

このフェルールが確保できないとクラウンがとれやすかったり、歯が割れてしまったりする可能性が高くなるので、かぶせることが目的の歯科医はフェルールがない歯の補綴を嫌います.

 

「フェルールが確保できないと抜歯」は歯医者の身勝手

残根状態の歯でフェルールが確保できないからといって、その歯を抜いてしまう歯科医が多いのですが、それは歯医者の身勝手だと私は思います.

クラウンを入れること、補綴物の長持ちが歯科治療のゴールではないからです.

健康な口の状態を確立してそれを長年維持するのが歯科治療の目的であるはずです.

その歯を保存するためには何をするべきか考えるべきで、補綴物を考えるのはその後です.

補綴をどうするかを先に考えて抜歯の判断をする歯科医は“もうけ主義”といわれても仕方がありません.

歯の治療は老朽化した機械の部品を交換するのとはわけが違います.

世間には、歯周病やむし歯で弱った歯を使い物にならなくなった部品のように考え、新品のインプラントやセラミックという部品と取り替えることに血道をあげている部品交換業の歯医者がたくさんいます.

病んだ歯は老朽化した部品ではありません.

歯は身体の一部です.

機械のように部品交換をすれば元に戻るものではありません.

手当てをし、いつくしむことで、体の一部として大切にすべきものだと思います.

 

クラウンレングスニング

フェルールが確保できないと補綴物が長持ちしないという前提で、クラウンレングスニングと処置を勧める歯科医もいます。

クラウンレングスニングは歯肉縁下に埋まった歯質を歯肉縁上に出す処置です。

クラウンレングスニングには外科手術と矯正処置があります。

外科手術は歯肉を切開して、歯の周りの骨を削り、歯肉縁上に歯質が出てくるようにする処置です。

この処置を行うとフェルールを確保することはできるのですが、肝心の歯周支持組織特に歯槽骨を失ってしまうことになります。

矯正処置はゴムやワイヤーの弾性を利用して、歯を挺出させて歯質を歯肉縁上に引っ張り出します。

矯正処置は歯周支持組織を失うことはありませんが、治療に長い時間がかかります。

さらに矯正では、後戻りの心配もあります。

クラウンレングスニングは歯の長持ちと言うより、補綴物を持たせるために行う処置です。

特に外科的なクラウンレングスニングはかえって大切な歯周支持組織を失ってしまうので、十分注意しなくてはなりません。

 

フェルールが確保できない残根の症例

私たちの歯科医院では、残根状態の歯でも歯根膜の支持がある程度残っているものはその歯の実力に合わせた補綴処置をおこなっていきます.それで十分機能させることができます。

下の図はフェルールが確保できないどころか、ほとんどの歯科医が抜歯と判断するような歯ですが、「歯の実力に合わせた補綴処置」によって15年以上ブリッジの支台歯として機能しています。

フェルールの確保できない残根(黄色矢印) フェルールが無い状態で、15年以上ブリッジの支台歯として機能します。

 


歯周病の新常識
小西昭彦
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