こに視点|現代日本の歯科事情

咬合(こうごう)を理解していない歯科医

2016年5月8日

 

咬合を理解して治療にあたる

補綴学の基本は力学です

歯科医療は入れ歯や冠を入れる補綴処置がその中心におかれているので、歯科治療を家を建てたり橋をかけたりするのと同様に考えてしまう傾向があります.

部分入れ歯では欠損の状態に合わせて義歯の”設計”を行いますし、ブリッジでは橋脚になる歯の強さによって支える歯の数を増減します.

これらの行為は、生体に対する治療というより、機械や建物の修理といった傾向が強くなります.

したがって補綴処置では建築と同様力学が重要になります.

 

歯の力学では咬合が重要になる

歯の力学では咬合という生体の特殊性にも目を向けなければなりません.

咬合とは上下の歯の噛み合わせのことをいいますが、下の顎を閉じてきた接触関係のことを指す場合と下の顎を前後左右に動かしたときの動的状態をいう場合を含むこともあります.

インプラントや矯正、全顎補綴ではその治療のための診断や技術のほかに、咬合や力を通常の補綴処置にも増して十分理解して行うことが重要です.

 

咬合は不明な点が多い

しかし、咬合や力に関しては現代の歯科医学でも不明な点が多く、机の上の機械論的な論理が臨床では通用しないこと再三おこります.

患者さんの口は機械とはことなり、筋肉があり、神経があり、靭帯があり、それらの軟組織の在り方は一人ひとりすべて異なっているからです.

ある人に当てはまる咬合や力に関する論理が違う人には当てはまらないということがしばしばおこってくるので、そのことを十分理解して治療を行わなくてはなりません.

いわゆる正常咬合

下の歯が上の歯より外側に出ている受け口の人や前歯が噛み合っていない出っ歯の人は、下顎を前方に出したときに適切なガイド(奥歯を守る前歯の噛み合わせ)が存在しません.

これらの点から受け口や出っ歯の咬合状態は力の点からいって不利であると考えられています.

しかし、出っ歯の状態で70歳過ぎても28本の歯で何不自由なく暮らしている人は何人もいらっしゃいます.


受け口の人の方が奥歯を喪失しやすいというデータもありませんし、その咬合状態で歯にダメージが加えられやすいということもなさそうです.

現代の歯科医学では、いわゆる正常咬合の方が有利であると考えられていますが、すべての人をその咬合にした方がよいという結論が出ているわけではありません.

その患者さんが咬合関係がまったく失われていたり、咬合が不安定だったりする場合、“いわゆる正常咬合”が一応の目安になるので、その咬合を基準にして補綴処置を行っているにすぎません.

 

咬合治療は受けない方がよい

咬合は非常に難しい問題で、どこからどこまでが正常でどこからが異常だということは判断できません.

外見からでも不正咬合や顎変形が認められるスポーツ選手はたくさんいます.

歯並びや歯の噛み合わせを見ただけで正常だ異常だというのはあまり適切な表現ではありません.

どこで噛んでよいか分からなくなってしまった場合、“いわゆる正常咬合”を基準に補綴物で口腔の再構成をしていくことは仕方がないことです.

しかし、歯科医の中には自分勝手な”正常咬合”を案出して、患者さんが問題を感じてもいないのに、その患者さんの口に大きな改変を行おうとする歯科医もいます.

それらの正常咬合を作り上げるためには、矯正を行ったり、エナメル質を大量に削って多数歯の補綴が必要になります.

歯は削れば削るほどその寿命を縮めますし、正常咬合に寄与しないといって健康な歯まで抜歯されてしまうことがあります.

矯正は歯周支持組織を失ったり、歯根吸収をおこしたりする危険性があります.

術者の技術が未熟であれば、考えていたような”見た目の正常咬合”でさえ与えられず、かえって口の崩壊の糸口となってしまうということもしばしば起こります.

人工的に作られた”見た目の正常咬合”は顎口腔系の神経や筋肉に適応しているわけではないので、それで生体にとって望ましい咬合関係が得らたのかというとそうとも言い切れません.

その歯科医のイメージする正常咬合が口腔の健康をもたらすことはほとんどない、かえって害があるというのが私の認識です.

このような歯科医の手にかかってしまい、口のみならず精神的にも被害を被ってしまった患者さんもいらっしゃるくらいなのです.

ご自身が不自由を感じていなければ、咬合治療は受けない方がよいと思います.

 

 

 

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