こに視点|現代日本の歯科事情

矯正治療が何年も後にトラブルを引き起こす

2016年4月16日

 

過去に矯正治療を受けたことのある患者さんが、歯や歯周組織にトラブルをおこして来院するケースが増えています.矯正のトラブルとしては、せっかく歯を移動したのに元の位置に戻ってしまう「後戻り」やブラケット周囲のむし歯や歯周病の併発などが良く知られています.

しかし、それらの治療直後のトラブルとは違って、治療後何年もたって矯正の後遺症と思われるトラブルが出現しています.

 

矯正医の技術が未熟でトラブルが起こる

矯正治療後何年もしてから出現してくるトラブルとしては

・「後戻り」してかみ合わせが矯正前よりかえっておかしくなってしまった.

・歯肉退縮が出現してきた.

・歯科治療のためにレントゲン写真を撮ってみたら、歯根の吸収が進んでいた.

・歯槽骨がなくなってしまった.

などがあります.

歯根吸収や噛み合わせがかえっておかしくなってしまったのは矯正技術が未熟というしかありませんが、歯槽骨が溶けてしまうのは判断に迷います.

 

矯正治療後の咬合性外傷が組織破壊を誘発する

「なんかへんだな~」と感じる骨吸収

歯肉退縮や歯槽骨の吸収は矯正と関係あるのかどうかははっきりしません.

しかし、通常の歯周病とは異なる「なんかへんだな~」と感じる歯槽骨吸収が認められたときに、患者さんに聞いてみると過去に矯正治療をしたことがあるということが多くあります.

例えば、歯肉にほとんど炎症像がないのに外見からは考えられないような骨吸収が認められる場合には、過去の矯正治療が影響を及ぼしていることが多いのではないかと思っています.

 

矯正後の咬合性外傷がポイント

歯周炎の原因は細菌因子と宿主因子ですが、力の因子も歯周組織破壊に大きく関与します.

矯正治療時にかかった無理な力が咬合性外傷を引き起こしたり、あるいは矯正をしたことによりかえって特定の歯に負担をかけてその外傷性咬合によって歯槽骨の破壊をおこしてしまう場合があります.

矯正治療は見た目の改善を優先して治療が進められるので、かえって咬合性外傷を起こしやすい咬合関係になってしまうことがあるわけです.

自分がやった矯正治療が咬合性外傷を引き起こすと考えている歯科医はまずいません.

しかし、技術的に思ったように歯の移動ができなかったり、後戻りがあって、咬合性外傷を引き起こさない咬合関係を確立することさえできない場合がたくさんあります.

一見、きれいに仕上がったようにみえる歯並びも、咬合性外傷におちいる危険がいっぱいなのです.

 

矯正治療では十分な”ガイド”が得られないのが問題

前歯が重なって生えているような乱杭歯(らんぐいば)や犬歯が八重歯(やえば)になっている場合などの矯正は、前方や側方のガイドが不十分になってしまうことがほとんどです.

前方や側方のガイドが不十分であれば、臼歯部に過剰な外傷性咬合が働き、歯周炎の発症と合併して急激な組織破壊を起こしてしまうことになります.

出歯や受け口の症例でも、歯だけの位置関係でそれを変化させる矯正手法がほとんどなので、きちんとした前方のガイドや側方のガイドまで手が回りません.

矯正治療後の咬合関係が甘くても普通は問題を起こすことは少ないのですが、歯周炎と合併してしまうと、通常より甚大な歯周組織破壊を引き起こしてしまいます.

それが矯正がらみの歯周炎の共同破壊の恐ろしさです.

 

矯正治療後の共同破壊の恐ろしさ

共同破壊は矯正治療後に限らず、歯周炎のいろいろな場面で起こっています.

しかし、矯正後の共同破壊が恐ろしいのは、矯正医がそのようなことが起こることにまったく気がついていないということです.

したがって、矯正医も患者さんも現在の歯槽骨破壊が何年も前の矯正治療によって起こったとは思いもしません.

そしてさらに困ったことは、矯正後の共同破壊には通常の歯周炎の治療が通用しないケースが多くなることです.

前方や側方のガイドの整った好ましい咬合関係をつくるためには再度矯正するしかない場合もまれではありません.

しかし、一度崩壊した咬合関係を再構築できる矯正医はほとんどいないといって良いでしょう.

また、患者さんも再度矯正治療することは納得できないと思います.

力が関与する歯周炎の治療はその歯にかかる負担を除去する必要があるのですが、矯正が失敗した症例の力をコントロールするのはほとんど不可能です.

したがって、その歯周病治療は困難を極めます.

 

矯正治療は慎重に

歯科医の資格があればだれでも矯正治療はできます.

インプラント同様自費治療なので、猫も杓子も矯正治療に手を出しているという現実があります.

にわか矯正医が町中に氾濫しています.

矯正治療を安易に考えていると、後々ひどい目にあいます.

矯正治療を受けるときは、その矯正治療がどういうものかよく調べて、慎重に対処するようにお願いします.

 

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