マイクロバイオーム計画により生体に常在している微生物群の詳細が分かってくるにつれ、それらの常在微生物群(マイクロバイオータ)は我々が生きていくうえで必要不可欠な存在であることが分かってきました。
マイクロバイオータは我々の消化吸収や免疫系に関与すると考えられており、これらの微生物と生体がおりなす生命活動全般をマイクロバイオームと言います。
我々が生きていくためにマイクロバイオームは無くてはならないものなのですが、これを障害するのが抗生物質なのです。
消化吸収を助けるマイクロバイオータ
胎児は子宮のなかではほぼ無菌状態に置かれていると考えられています。
しかし、出産とともにその安静は破られ、微生物の洗礼をうけます。
そして、その子の固有のマイクロバイオータが形成されていきます。
マイクロバイオータは成長とともにその種類や構成を変え生体に居場所を確保していきます。
ヒトはマイクロバイオータにその居住地を与える一方で、マイクロバイオ―タはヒトに数々の恩恵を与えるという、お互いがその生存にとって無くてはならない関係になっています。
マイクロバイオータがもたらす恩恵のひとつにヒトの消化吸収を助けるという役割があります。
大腸の細菌は小腸で消化できなかったものを代謝してヒトの栄養摂取に役立てます。
ヒトが産生できないビタミンKを産生する細菌もいますし、デンプンを単糖にかえる細菌も存在します。
消化管にいる細菌の産生物質が血管の受容体を通じて血圧を安定に維持することもあります。
いずれにしても、ヒトの体内に存在するマイクロバイオータはヒトの生存にとって無くてはならない存在ということになります。
第3の免疫系
ヒトの免疫には人体表面を防御する先天性免疫とリンパ球のつくる抗体に代表される後天性免疫があると考えれられています。
しかし、それらの免疫システムに加えて、さらにもう一つの免疫系があると米国感染症学会の元会長マーティン・J・ブレイザー・教授は言います(失われてゆく、我々の内なる細菌)。
それが、マイクロバイオームによる第3の免疫系です。
生体のマイクロバイオームはあらゆる機構を利用して外来微生物の侵入を防いでいるのです。
防いでいるというのはヒト側からの見方ですが、ヒトという居場所を得て生存競争を繰り広げている細菌群からすれば、外から入り込んで自分たちのテリトリーに侵入しようとするならず者を撃退しようとするのは生き残るためには当然の対応です。
生体と長い間協調してそこに平和な居住地を見つけている細菌たちは、よそ者が入ってきてその居住地を奪われることを良しとしないわけです。
簡単に奪われないように仲間と協力して自分のいる場所を外来者から守ります。自前の抗生物質を含む有害物質を分泌して、侵入者を追い出してしまう細菌もいます。
団体旅行で食中毒が起こってしまったときにも、症状が激しく出る人と、まったく問題ない人がいます。
これは、その人の持っているマイクロバイオームの働きがそれぞれ異なり、第3の免疫系の働き具合が違うからなのです。
抗生物質が免疫系を破壊する
生体の常在微生物群、マイクロバイオータは消化吸収においても、外敵から自分を守るためにも無くてはならない存在なのですが、その生命活動を破綻させてしまうのが抗生物質です。
ペギー・リリスは歯科治療のために投与された抗生物質で亡くなってしまいましたが、死に至らないまでも抗生物質がその人を害してしまう可能性がとても高くなると多くの人が軽傷を鳴らしています。
歯科領域ではそれほど必要もないのに抗生物質が習慣的に投与されていることがよくあります。
日本ではアジスロマイシンなどの広域スペクトルの抗生物質を使用した歯周治療を行っている歯科医もたくさんいますが、この歯周治療は「百害あって一利なし」の治療法なのです。
広域スペクトルの抗生物質は無差別に細菌を死滅させます。
生体に恩恵を与えてくれる細菌を殺傷して、消化吸収を阻害し、第三の免疫系を傷害してしまう生体に害を与える毒なのです。
抗生物質を使用する歯周治療は行わないように、受けないようにお願いしたいと思います。
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