化膿性炎症により組織に膿がたまった状態がアブセス(abcess)です。
日本語では膿瘍(のうよう)といいます。
アブセス(膿瘍)徐々に大きくなり、時間経過とともに歯肉粘膜や皮膚にフィステル(瘻孔・ろうこう)ができて、そこから膿を排出(排膿)して小さくなっていきます。
しかし、アブセスができた原因を治療しないと、フィステルから常に膿が出ている状態で、体調や周囲の環境によりまたアブセスが膨らんできます。
フィステルはサイナストラクトとも呼ばれています。
アブセスとフィステル:YouTube版
歯ぐきのできもの、抜かずに治す |
歯茎におできのようなできものができることがあります。
これらのできものは、膿瘍、アブセス、フィステル、ろう孔、などと呼ばれています。
”膿瘍”とは膿がたまっている歯肉のふくれ、”フィステル”というのは病変部で産生された膿を膿瘍にまで排出する管のことをいいます。
言葉だけ聞くと頭の中がこんがらがってきますが、動画を見ていただければすぐ分かると思います。
”膿瘍”を英語で言うと”アブセス”。”フィステル”は日本語で”ろう孔”と言います。
フィステルというのはドイツ語で、英語ではフィチュラーとなりますがこの単語はあまり使われておらず、サイナストラクトと呼ばれることが多いようです。
”膿瘍”、”アブセス”、”フィステル”、”ろう孔”という用語は臨床現場において、ほとんど同じような意味合いで使われており、歯茎のできものや歯肉のふくれを指しています。
歯周膿瘍と歯肉膿瘍
アブセス(膿瘍)を形成すると、歯肉がぷくっと腫れあがります。
この膨れは軟らかめで、プヨプヨとした感じです。
大きさは直径2mmくらいのものから、大きいものは直径1cm以上に膨れ上がることもあります。
歯周炎や歯根破折に関連して歯周組織に形成された膿瘍を“歯周膿瘍(ししゅうのうよう)”といいます。
歯と歯肉の間や歯の破折した割れ目から細菌が侵入ようとするのを防ぐために白血球がその部に集まってきて、自壊することで歯周膿瘍が形成されます。
同じような症状を呈するものとして“歯肉膿瘍(しにくのうよう)”があります。
歯肉膿瘍は歯肉の傷口から細菌が侵入しようとするのを防ごうとした場合で、歯周膿瘍に比べ発現頻度はずっと低くなります。
アブセス(歯周膿瘍)の原因
アブセス(歯周膿瘍)が形成される原因としては、以下のようなことが考えられます。
1)根の先に病変ができていて、そこに膿がたまって、歯茎に腫れがでる場合(根尖病変・感染根管)
2)歯が割れていて、そこからバイ菌が入り膿をもつ場合(歯根破折)
3)歯と歯肉の間からバイ菌が入り膿をもつ場合(歯周病)
4)むし歯の進行などで、根管に穴があいて(穿孔・せんこう)してしまった場合
その他、内部吸収や外部吸収などの疾患も考えられます。
アブセス(歯周膿瘍)の治療
アブセス(歯周膿瘍)の治療は細菌が侵入しようとしている経路を遮断することが主なものとなります。
感染の原因としては、感染根管、歯根破折、歯周病などがありますが、その感染経路の遮断方法はそれぞれ異なってきます。
歯周病
ポイント
歯周炎の急性発作によって形成された歯周膿瘍はオーラルフィジオセラピー(ブラッシングを中心とした歯周病治療)をおこなうことで消失します。
深い歯周ポケットが存在し、大きな歯周膿瘍を形成しています. | オーラルフィジオセラピーを行うことで、歯周膿瘍も消失し、ポケットも改善されました. |
根尖病変
ポイント
根尖病変は神経の入っていた管(根管)を介して細菌が侵入することで起こります。
したがって、その根管をきれいに掃除してしっかり封鎖する(根管治療)ことで膿瘍を消失させることができます。
歯と歯肉の境目に膿瘍を形成しているのが分かります.(黄色矢印) | 通法通り根管治療を行うことで、膿瘍は消失しました.(青矢印) |
X線写真では第二小臼歯の根尖に黒い影が認められます.これが根尖病変です.(黄色矢印) | 根管治療をおこなって、根の先まで根管充填剤がしっかり詰めました.根尖部の陰影は改善しているようです. |
歯根破折
ポイント
歯根破折の治療は破折の状態によりそれに適した治療をおこないます。
破折部分を接着する、破折片を取り除いてしまう、破折部が安定するのを待つ、などの対応により膿瘍を消失させます。
左上の第二大臼歯が突然痛み出し、写真では分かりにくいのですが、ほほ側の歯肉に大きな膿瘍が形成されています. | |
神経の処置をした歯がある日突然腫れだしてくるのは、歯根破折の場合が多いようです. クラウンを除去してみると破折しているのがはっきり分かりました. 赤く見える部分が破折したところです |
歯根破折の歯は通常抜いてしまいますが、小西歯科医院では抜かずに治療します. この場合は歯周組織の安定を待って、ファイバーポストとコンポジットレジンで修復しました. |
膿(うみ)
ふくれ上がった膿瘍の中には膿がたまっています.
膿は白血球のうちの顆粒球(好中球)が炎症巣内で脂肪変性に陥ったものが主成分です。
顆粒球(好中球)は貪食といって細菌を細胞内に取りこんで消化分解する役割を担っています。
この作用を終えた顆粒球過剰になって体内で処理しきれずに、体の外に排出されたものが膿となります。
つまり膿がたまるということは、身体の中に入り込もうとする細菌と、それを防ごうとする好中球が戦った結果ということになります。
過労、睡眠不足と膿瘍
過労や睡眠不足のとき、ストレスがたまったときに腫れて膿瘍を形成しやすくなります。
これは、過労や睡眠不足が続くと、交感神経の持続が続いて好中球の産生が促進されるからです。
これらのことは安保免疫論で示唆されています。
フィステル(瘻孔・ろうこう)
体内の炎症巣と外部をつなぐ病的な管状の連結をフィステル(瘻孔・ろうこう)といいます。
根尖性歯周炎や歯周病が急性化して膿瘍が形成されますが、膿瘍はやがて自潰し歯肉粘膜や皮膚に瘻孔を作り排膿するようになります。
フィステルというのは、病巣で産生された膿汁の排膿路ということになります。
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