こに視点|現代日本の歯科事情

歯科治療のゴールはかぶせることでもインプラントを入れることでもありません

2018年9月6日

 

抜かない治療とインプラントは相いれない

「“抜かない治療”という歯科医院を隣の県でみつけたが、そのホームページに“インプラント”を推奨すると書いてあったので、どうも信用できなくて東京までやってきました」

西日本からわざわざ飛行機に乗って来院される患者さんが初診のときのことばです.

この患者さんがおっしゃるように、”抜かない治療”と”インプラント”は相いれません.

インプラントはあごの骨の量が十分なくてはできない処置です.

歯周病は進行すればするほど歯槽骨の量は少なくなってしまうので、重度になるとインプラントの埋入は難しくなってしまいます.

したがってインプラントを入れたい歯医者は、骨のあるうちに歯を抜くことを勧めます.

歯の健康や口の機能回復とは関係なく、インプラントを成功させたいがための抜歯です.

ところが安心してインプランを入れられるほどの骨量のある歯は抜く必要のない歯であることがほとんどで、患者さんはインプラントのために本来ならば抜かなくてもよい歯を抜かれてしまいます.

 

インプラントは健康な歯も抜いてしまう

 「下の前歯を治してもらいたくて歯医者に行ったのにそこはみてもらえず、奥歯が悪いからといって特に問題のなかった歯を抜かれてインプラントにされてしまった」

「インプラントを入れるために歯を抜いたが、しっかりしていて抜くのに大変な思いをした.本当に抜く必要があったのか、今でも疑問に思っている」

などという話はしばしば耳にする訴えです.

先日いらっしゃった患者さんは、X線ではまったくといって良いほど問題のない歯の抜歯を勧められました.

その歯は上顎の大臼歯で、上顎骨には副鼻腔があるのでインプラントを入れる骨量を確保するのが難しい場所です.

したがってインプラントを入れることしか頭にないと、十分な骨量を確保するために健康な歯であっても抜きたくなってしまうのでしょう.

 

補綴物装着を目的とする歯科医

”歯をなるべく抜かずにお口全体を健康に保つこと”をうたっている歯科医院のホームページにこう書いてありました.

「歯周病を放置しておくと確実に骨が失われ、残された歯槽骨の量は少なくなってしまいます.入れ歯をつくるにもインプラントをいれるにしてもこのことは大変不利になってしまいます.歯周病の歯は早めに抜きましょう」

この“大変不利”というのは補綴物を入れるときに“不利”になるということで、口の健康に不利ということではありません.

この考え方が日本の歯科医療の大きな問題点なのではないかと思います.

インプラントやセラミックなどの補綴物のをいれることが歯科治療の目的になってしまっていて、口腔の健康が忘れ去られているということです.

いつの間にか口を健康にする手段であった補綴処置が歯科治療の目的になってしまっているのです.

歯科医院のホームページをみてみると、インプラント、審美治療、矯正歯科などの文字が躍っています.

これらの治療は失われた噛む機能を回復したり、見た目の改善を目的としたものですが、現実に行われているこれらの処置は本来の健康から完全に逸脱し、インプラントを埋入することそのものや、歯を整列させることだけでゴールとしているものがたくさんあります.

インプラントを入れたがよく噛めない、見た目が悪い、矯正したけれど上下の歯が噛み合っていない、歯肉が大幅に退縮してしまったなどのトラブルがあっても、歯科医はインプラント埋入は成功しました、歯は並びましたといって、とりあってくれないことが多いようです.

歯科医療の目的は少なくともその治療結果に患者さんが満足することが必要だと思うのですが、多くの歯科医の目的がインプラント入れること、セラミックをかぶせること、歯を並べ替えることになってしまっているようです.

 

歯科治療の目的は口の健康の獲得と維持増進

歯科医療の目的はセラミックを入れることでも、インプラントを埋入することでもありません.

口の中を健康な状態に保ち、具合よく長持ちさせることがその目的です.

セラミックもインプラントもそのための手段に他なりません.

口の健康を確立し維持するために歯は抜くべきではありません.患者さんと歯医者が医患共同でできる限り歯を抜かずに済むように努力することでその道がひらけます.

セラミックやインプラントを考えるのはその後です.

たとえ、歯周病が進行して“不利な状態“の口になったとしても、その口にあった補綴物を作るのが歯科医の役割です.

そのために腕を磨きましょう.

補綴物を入れたいがために、歯を抜いてしまうのは本末転倒です.

金もうけ主義歯医者と言われても仕方がありません.

 

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