こに歯学|歯科の記事

リグロスの問題点

2018年8月2日

リグロスというのは歯周組織の再生効果をうたって発売された健康保険適用の歯周病治療薬です。

リグロスに関する私の考えは以下の二つです。

①歯周組織の再生治療薬としての効果はさほど期待できない。

②歯周病を治すためではなく、医院経営のためにこの薬剤を濫用する歯科医が出てくるのが心配。

 

リグロスとは

リグロスは歯周病の外科手術の際に使用することで、歯周組織の再生を促すことを目的とした薬剤です。

リグロスは創傷治癒や血管再生に関係する体内で必要に応じて産生される成長因子の成分を身体の外で人工的に製造したものです。

歯肉剥離搔爬術(しにくはくりそうはじゅつ=フラップ手術)のときに根面に塗布することで、創傷治癒の過程で歯周組織の再生を促すというのがこの薬剤の主たる目的です。

しかし、歯周組織再生という割には、治療が成功しても大した効果が得られるわけではなく、ほとんどの場合が歯槽骨の再生に失敗しているのではないかと推察しています。

というのは、リグロスの治療の成否を判定することが難しく、その治療がうまくいかなかったと気がついても、それを報告する歯科医はいないからです。

悪く言えば、リグロスの治療は薬剤をそこに貼薬さえすれば良いという治療法になるわけです。

 

リグロスは健康保険適用の薬剤

リグロスはエムドゲインと同様の効果をねらった薬剤なのですが、両者の大きな相違は、健康保険が適用されるか否かといういことです。

保険診療でも歯肉剥離搔爬手術(フラップ手術)は認めてられていますが、エムドゲインの使用は認められていないのでその施術には一本の歯に数万円という費用がかかってしまいます。

しかし、リグロスは健康保険で認可された薬剤なので、エムドゲインの半分以下の料金でその処置を受けることができます。

高価な薬剤が保険の適用になることは朗報なのですが、一方でいくつか心配な事があります。

 

リグロスの適応症は限られている

リグロスの使用に関して私が危惧していることが二つあります。

ひとつは歯周支持組織の再生治療薬といううたい文句で発売されていますが、その効果はそれほど期待できないということです。

歯槽骨の再生といってもその効果は限定的で、一般に”歯槽骨再生”という言葉から連想するような効果が期待できるわけではありません。

レントゲン像を見て

「えっ!?これを骨が再生されたというのですか?」

といった些細なレベルなのです。

つまり、重度歯周病の患者さんが望んでいる(グラグラの歯がしっかり噛めるようになるほどの骨再生)ような臨床レベルの効果が得られるわけではありません。

リグロスに過剰な期待をよせてしまうと、その結果に対する落胆は大きくなります。

リグロスの適応症はエムドゲインと同様非常に限られており、

①垂直性骨欠損、

②下顎臼歯部の2 級分岐部病変、

③上顎臼歯部頼側からの2級分岐部病変

などでその効果が期待できるとされています。

文字で書くとものものしいのですが、これらの病状は自覚症状がほとんどなく、歯槽骨のほんの一部だけ吸収したごく軽度の歯周病です。

いずれも従来の歯周病治療で十分歯槽骨の改善ができる程度のものなのです。

 

過剰治療のおそれ

リグロスの保険適用で危惧されるもう一つのことはこの薬剤の濫用です。

歯周病を治すためではなく、医院経営のためにこの薬剤を利用する歯科医がいるのではないかということです。

前述のようにリグロスの適応症が限られているのにも関わらず、それを無視してフラップ手術が必要のない歯まで歯肉を切ったり、塗っても効果が得られない歯槽骨吸収のはなはだしい症例にまでリグロスを適用する歯科医が出てくる可能性があるわけです。

フラップ手術のときにその薬剤を塗布すれば、手術の費用とは別に1万円程度の診療報酬のアップが認められるので、どうせ歯肉弁を開いたのなら、薬剤を塗布しておこうという歯科医がいてもおかしくありません。

歯周外科手術(フラップ手術)でさえ、「(歯周病の治療のためではなく)その後のSPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)の保険請求を円滑にするために行う」と言っている歯科医がいるくらいですから、リグロスもそのような考え方で使われてしまう可能性が十分にあるわけです。

 

関連図書

【歯周病の新常識】 歯周外科手術は必要なのか P59

【歯科治療の新常識】 社会的歯科医原病 P60

歯周病の新常識
小西昭彦
阿部出版
歯科治療の新常識
小西昭彦
阿部出版

小西歯科医院のホームページ

 

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