こに思考|他方面から学ぶ

特定病因説が通用しない疾患

2018年3月5日

「病気にはその病気特有の原因があって、その原因を除去すれば病気が治せる」という ことが分かったのはそれほど古いことではありません。

この考え方を”特定病因説(とくていびょういんせつ)”といいますが、この概念によって近代医学は華々しい進歩をとげました。

しかし、近年になって、”特定病因説”が通用しない疾患がたくさんあることが分かってきたのです。

特定病因説:特定の因子が特定の病気を引き起こす

ルイ・パスツール(1822-95)

親愛なるパスツール先生.
あなたに対する信頼に幾分のためらいを抱いていたのは、もはや過去のこととなりました.
実験はきわめて厳正な方法でみごと成功しました.
あなたは科学、特に医学の歴史に画期的な1ページを書き加えたのです.
M・ブーレー

1881年、フランスのプイー・ル・フォールで炭疽病(たんそびょう)に対するワクチン接種の公開実験がおこなわれました.
手紙はこの実験後に批判派のひとりM・ブーレーがパスツールに書き送った手紙です.
パスツールの公開実験は“特定の因子が特定の病気を引き起こす”というそれまでの医学には無かった考え方、“特定病因説”の威力を明快に証明したものでした.

病気には原因がある

ロベルト・コッホ(1843-1910)

この“特定病因説”の正当性をさらに確固たるものにしたのがコッホです.

コッホは、当時7人中1人の死亡率といわれていた結核や感染力の強いコレラの原因菌を発見して“特定病因説”の正しさを立証したのです.

その後、破傷風菌やペスト菌など病気の原因である細菌が次々と発見され、多くの病気が細菌の感染によって起こることがはっきりしてきました.

その感染症の解釈を敷衍(ふえん)することで、すべての病気には個別の原因があり、科学の進歩とともにその原因は明らかになるだろうと考えられるようになりました.

そして、壊血病の病因がビタミンの欠乏であること、フェニールケトン症は遺伝に原因があることなど多くの病気の原因が明らかになり、”特定病因説”はますます脚光を浴びるようになりました.

 

科学の”論理性”にぴったりと当てはまった”特定病因説”

“特定病因説”は一つの原因に対して一つの結果という科学の論理性にぴったりと当てはまるもので、”特定病因説”によって近代医学の地位は不動のものとなったわけです.

”特定病因説”に基づく医療は大きな威力を発揮して、われわれは多くの恩恵にあずかりました.

しかし、一方で“特定病因説”が万能ではないこと、さらに“特定病因説”だけに頼りきっていると思わぬ弊害があることもはっきりしてきました.

 

原因-結果が明瞭でない疾患がたくさんある

”特定病因説”では解決できない、言い方をかえれば原因の見つからない疾患があることが分かってきたのです.

糖尿病などの生活習慣病や関節リウマチなどの自己免疫疾患には、原因-結果と明瞭につながる病因をみつけることはできません.

したがって感染症の治療で威力を発揮したワクチン接種も抗生剤もほとんど役に立ちません.

つまり”特定病因説”だけに頼っていてもなかなかその病気を治すことができないわけです.

 

歯周炎も”特定病因説”で解決できない病気の一つ

歯周炎も治せない

組織破壊を伴う歯周病、歯周炎も”特定病因説”では解決できない病気の一種です.

歯周炎は歯肉炎と異なり、原因がいくつかある多因子性の疾患であると考えられています.

したがって原因の一つである歯周病菌だけに対処してもなかなか改善しません.

「定期的に検診に行っていたのにい、歯周病が悪化してしまった」
「歯周外科処置をしたのに歯周ポケットが改善しない」
「ジスロマック(抗生剤)を飲んだがあまり効果はなかった」

などということがおこるわけです.

 

抗生物質の弊害も特定病因説がもたらした

ジスロマックというのは、内科的な歯周病治療法として注目をあびている抗生剤です.

抗生剤は“特定病因説”基づいて開発された魔法の薬で、感染症の治療に大きな威力を発揮しました.

しかし一方で耐性菌が出現して新たな難治性の感染症を発症するというやっかいな問題も持ちあがっています.

これも”特定病因説”の弊害といってよいでしょう.

 

原因-結果だけでは歯科疾患は治せない

「原因-結果」で病気をとらえる”特定病因説”だけにとらわれていると歯周病のみならず歯科疾患の治療はうまくいきません.

インプラント埋入後の不具合、独りよがりの論理に基づいた咬合治療、稚拙な矯正治療による口腔破壊などは、歯科疾患を”特定病因説”だけで治そうとした弊害です.

経験の足りない歯科医の一義的な考え方は時として大きな被害をもたらします.

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