こに思考|他方面から学ぶ

オーダーメードの歯周病治療

2018年5月5日

近代科学を成立させる原則の一つに「普遍性」があります.

普遍性だけに頼って歯科治療を進めると、その人の生活のあり方や考え方が忘れ去られてしまいます.

歯周病治療で個々人の生活や考え方を考慮しないと、期待するような結果を得ることはできません.

 

先端技術が口の中に崩壊をもたらしている

最先端の歯科技術に基づいた歯科治療がうまくいけばよいのですが、治療の失敗や経年的な変化で以前には考えられなかったほどの悲惨な状況をつくり出していることがあります.

鬼の牙のように口の中に突き出た役に立たないインプラント.

矯正治療によって恐ろしいほど大幅に吸収してしまった歯根.

マージンが醜く露出してしまったセラミッククラウン.

種々の補綴物が装着され、どこで噛んでよいか分からなくなってしまったデュアルバイトの咬合.

近年になって開発された技術や材料を駆使して行われた歯科治療の失敗は凄惨を極めます.

科学の粋を集めた原子力発電がフクシマで悲惨な結果を招いたように、高度先端技術ともてはやされているインプラントや矯正治療や審美補綴のトラブルが絶望的な状況をつくり出しているのです.

 

歯周病治療と普遍性

近代科学には「普遍性」「論理性」「客観性」という3つの原理があります.

このなかの「普遍性」というのは、「いつでもどこでもそのことが当てはまる」ということです.

しかし、「歯みがきをきちんとして、歯科医院に定期的に行っていれば歯周病にはならない」というのは建前で、すべての人にそのことが当てはまるわけではありません.

歯を磨かなくてもそれほど歯周病が進行しない人がいる一方で、ブラッシングを一生懸命やって、3ヶ月に1度歯科医院に通っていても歯周病がどんどん進んでしまう人がいます.

つまり、普遍的な歯周病予防法や歯周病治療法は確立していないのです.

歯周病の原因、普遍性のあるものと無いもの

歯肉炎の原因論には普遍性がある

「細菌は歯周病の原因の一つである」という考え方には、ある程度の普遍性があります.

アメリカ人の歯周病もタンザイニア人の歯周病も、あるいは江戸時代の人の歯周病も現代人の歯周病も、その原因の一つが細菌であることは間違いないでしょう.

細菌が原因であるという原理原則は歯周ポケットというミクロの世界という概念的には“絶対空間”に比較的近い場所で起こっていることなので、普遍性が成り立ちやすいと考えられます.

 

歯周炎の原因論は普遍性がなじまない

歯周炎で引き起こされる歯周組織破壊は細菌に対する生体側の免疫システムの過剰反応によって引き起こされると考えられています.

この過剰反応は細菌の多寡(たか)や種類ではなく、生体側に問題がある可能性が高いと考えられています.

生体側の問題というのは、その人の生活習慣や全身の状態や歯周病に対する感受性などが含まれます.

この生活習慣や全身の状態というのは細菌の問題と異なり、個々人によってみな違うので“普遍性”はなじみません.

つまり、組織破壊をともなう重度の歯周病は“普遍性”が確認できている細菌へのアプローチだけではなかなか改善できないということになります.

歯周病治療では科学的な普遍性だけではなく、個々の生活や考え方などを考慮したその人その人に合った歯周病治療が必要になるわけです.

関連図書

【歯周病の新常識】 患者主体の歯周治療 P162


歯周病の新常識
小西昭彦
阿部出版
歯科治療の新常識
小西昭彦
阿部出版

小西歯科医院のホームページ

 

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